幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

君も命を懸けて。

プロデューサー 秋山佐和子 

 

2014年5月の連休明け、平さんから電話がかかってきた。
 
「連休中、2012年のメディアのビデオを見て、まだやり残したことがあると思ったんだ。だから再演を演りたいって、気持ちが変わったよ。
演るからには、『放浪記』と言えば森光子と言うように、『王女メディア』と言えば平幹二朗、と言われるようになりたいんだ。」
 
平さんの体には36年間メディアが棲みついている。
私は公演の度に必ず一回は言われた。「僕はこの仕事に命を懸けているんだよ。だから君も命を懸けて。」
 
その平さんが一大決心をしたのだと思った。
 
『王女メディア2012』は「さようならメディア」と銘打った最後の公演だったが、再演を熱望する演劇鑑賞会の声があちらこちらから上がっていた。
2015年から2016年にかけて100ステージ近くに及ぶ再演が行なわれた。
その『王女メディア』の大千秋楽の終演後、「やっと初日が開いたよ。」と満面の笑みを浮かべた平さんが、楽屋で一人メイクを落としていた。
「あと一回だから、もう恥はかき捨て、様式に頼らないで、すべて生身の女性で演ってみよう!と思って演り始めたんだよね。そしたら、トントン上手く行っちゃったんだよ!」
38年かけた初日。なんていう人なんだろう!と思った。
 
演劇一筋の人生、最終ラウンドは自ら演じたい作品づくりをライフワークとして、全国の演劇鑑賞会を巡演する道を選んだ。
選んだ時点で、最終ゴールは半生を共にした『王女メディア』と決まっていたと思う。
それ以外には考えられない。
いつも前向きで、次の目標に意欲的に挑戦していた平さん。そこには年齢はなかった。
だから私は、平さんは不死身だと思っていた。
私が大失敗をして平謝りする時、「済んだことはもういいから、次のことをきちんとやりなさい。」といつも言ってくれた。
 
今頃は初日に続く 2日目からの『王女メディア』公演のために、古代ギリシャの劇場で古代ギリシャの役者たちと稽古をしているかもしれない。
もちろん古代ギリシャの観客の前で演じるのだから、すべて生身の女性で演じ切らなければならない。
気合が入っている平さんがいる。髙瀬さんの姿も演出家席に見える。
2日目からのこのプロデュースは絶対に平さんと一緒にやりたいから、私がそちらに行くまで上演は待っていてくださいね。
 
平さん、私は平さんから沢山のことを教えていただきました。その中で一番大きく深いこと、それは人間の生き様です。
平さんに再会した時に恥ずかしくないように、教わったことを胸に、残りの人生を生きて行きます。
平さん、ありがとうございました。

 
2017年2月14日