幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

第8回 八戸公演 二日目


211日(木)建国記念日
 
 穏やかな、良い天気の祝日だ。
今日は、昼間の公演。
1時半の開演だが、12時に楽屋へ。
 
12:00 楽屋入り
 
 楽屋口の下に喫煙所がある。
今、煙草はこういう場所でしか吸えない時代になった。
ただ、ここで煙草を吸っていると、「喫煙組」のスタッフ・キャストの皆さんと雑談できるのも楽しみの一つだ。
 そんな雑談のテーマも「メディア」だ。
どんな状況でも自在に相手の台詞に対応できる平さんの抽斗には千田是也に始まり、浅利慶太、蜷川幸雄と、全くタイプの違う三人の演出家と切磋琢磨し、闘って来た歴史が詰まっているのだ。
偉大な先輩が歩んで来た道は、今や巨岩となって、他の役者さんには映るに違いない。
それは、観客席にいる私にも良く判る。
 
12:40 メイク開始
 
昨日よりも10分遅いタイミングでメイクが始まった。
藤原さんは、焦っているようには見えず、自分がなすべき作業を淡々と進めているように見える。
平さんは昨日と同様に完全に身を委ねており、何気ない日常会話がポツポツと交わされる中で、メイクが進む。
最後に紅を引いた瞬間、今日も平さんにメディアが降臨した。
 

1:30~3:30『王女メディア』
 
 今日は700名を超える観客が、一心に舞台に見入っている。
誰もが「今日の一回」の舞台しか観ることはできず、演じる側も同様だ。
八戸では、昨日も公演があったが、観客も俳優陣もコンディションが違う。
同じ芝居を演じても、二度と同じ物にならないが「生の舞台」の魅力でもある。
 
 平さんのメディアは、昨日に増して輝いている。
どう考えても疲労は確実に蓄積されているはずだが、その影は微塵もなく、裏切られた女性の哀しみと、嫉妬に狂う激情に溢れている。
観客も平さんの世界にグイグイと引っ張られてゆくのが、同じ観客席にいるとよくわかる。
 
 舞台が終わると、後ろの席の人が立ち上がって、惜しみない拍手を送っている。
「若いわねぇ」という女性の声も。
それが聞こえたわけではないだろうが、平さんはじめ皆さんが笑顔でそれに応じているばかりか、平さんは軽いステップを踏むように走った。
さっき、楽屋で足にテーピングをする姿を観ていた私には信じられない光景だ。
舞台には「魔物」が棲んでいる、とは我々の世界でよく使う言葉だが、まさにその瞬間を見たような気がした。
 
 今日も良いお客様に囲まれて、東京から八戸まで付いてきた甲斐があったというものだ。
次に平さんの舞台を観るのは、この長い旅の千秋楽、3月5日~6日の茨城県・水戸市での公演になる。
『王女メディア』の一行は、これから更に寒さの厳しい北海道へ向かい、
それを終えてしばらくの休憩を挟んで千秋楽を迎えることになる。
水戸での舞台がますます楽しみだ。