幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

『王女メディア』旅日記


中村義裕(演劇評論家)

 
 

はじめに

 
 
 舞台は、大小の劇場が数え切れないほどある東京や、大阪、名古屋、博多などの大都市だけで公演されているわけではない。
各地方に「演劇鑑賞会」という団体があり、地方や県ごとにブロックがまとまっている。
その各ブロックの「点」を結び付け、長い一本の「線」にしながら、時には過酷とも言えるスケジュールの中、日本各地を回る。
2012年に大好評を得た『王女メディア』の今回の旅は、2015930日に東京都・立川市で幕を開けた。
以後、西日本、四国、中部、北陸、東北、北海道を経て201636日に茨城県・水戸市で96ステージ目の千秋楽を迎え、実に58ヶ所に及ぶ旅になった。
 
 今まで、私は批評家として意識的に年に一度はこうした地方の芝居の旅に飛び入りで参加させていただいている。
東京の芝居だけに慣れてしまうと、常設の劇場や、会場はあっても演じるべき「ソフト」のない場所が、どれほど生の舞台を楽しみにしているか、また、同じ地域でも場所による観客の反応がどれほど違うかを肌で感じるためだ。
東京の劇場の椅子に座っていただけでは判らないことが、旅公演にはたくさんある。
旅公演への参加は、私の批評家としての感性の「洗濯」にも似た行為だ。
 
 201619日、東京グローブ座での『王女メディア』の初日の公演が終わった後、私は今年の旅はこの芝居しかない、と決めた。翌月、東北を回るスケジュールの一部に、強引に割り込ませてほしい、との電話から私の『王女メディア』の旅が始まった。
これからお届けする旅日記は、その記録の一部である。 

 
 

このトラックが半年をかけて約9,500キロを走ったのだ。
 

地方公演のマストアイテム「旅手帳」
 

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『王女メディア 旅日記』