幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

「華」  

梅沢昌代

 平さんの訃報はあまりに突然でしたので、今でも実感がありません。
個人的には年賀状のやりとりと、劇場などでおめにかかった時にご挨拶をさせていただく程度なので、私のような者が平さんについて書かせていただくのは、とても恐縮してしまうのですが、ファンのひとりとして書かせていただきます。
 
 初めて平さんの舞台を拝見したのは『近松心中物語』('79)でした。
蜷川さんの演出も斬新で素敵でしたし、私の文学座時代の先輩の太地喜和子さんも綺麗で、その色気はある意味、戦闘的でもありました。
平さんは御自身の美意識で対峙されていて、とても華のある舞台でした。
『王女メディア』('84)もジェンダーの壁を軽く跳び越え、表現へと向かう様は圧巻で、ある時期のデビィッド・ボウイとも重なり、狂気すら漂わせる舞台でした。
私が平さんの舞台に出させていただいた『メジャー・フォー・メジャー』('96)は、私ごときでは、平さんと絡む場も無く、稽古場で平さんの演技を見学出来ただけで、満足でした。
『リア王』('97)は平さんの舞台では個人的には一番好きです。
私は若い頃、シェイクスピアというジャンルは何度観ても、大袈裟な世界にしか感じられず苦手だったのですが、平さんの『リア王』は違いました。
平さんの台詞の聞き取りやすさもさることながら、リアの孤独や悲しみが滲み出る舞台でした。
私の中で初めてシェイクスピアの作品が理解出来た瞬間でもありました。
 
 その後、私が井上ひさしさんの作品で、紀伊國屋演劇賞を受賞させていただくことになり、平さんと御一緒に受賞出来た事が、なによりの誇りです。
平さんはどんな役を演じられていても、「華」がありました。
素敵な舞台ありがとうございました。
 
 心よりご冥福をお祈り致します。
 
合掌。