幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

 


私の自撮り写真に写っている平さん。
出雲大社にて。
 
 

「平幹二朗という大名優と
出会えた事に感謝」

若松武史

 
 『テンペスト』(1987年 蜷川幸雄演出)、NHK大河ドラマ『武田信玄』(親子役)等々で共演させて頂いた平さんと久方ぶりにご一緒させて頂いたのが『王女メディア』(2012年 高瀬久男演出)で、最後の共演となってしまったのも再びの『王女メディア』(2015年~16年)でした。
高瀬さん演出での平さんの『王女メディア』は、若かりし頃のあのほとばしるエネルギー全開のメディアではなく、哀愁漂う、秘めたる熱い情念の煮えたぎる、人間臭い、俗物性を持つ、溢れ出る究極の母性愛のシンボルでした。
 
 劇界の怪物・平さんのあの美しい立ち姿、立ち居振舞い、朗々とした台詞回し、そして何といっても空間と観客の心をわし掴みにしてしまうスケールの大きな演技と強烈な存在感に、いつの間にか魔法にかけられてしまう観客!!そして、私も。
平さんとの舞台上のやり取りは、毎日が新鮮で、毎日が変化していくものでした。
演ずる、化けるという演劇的魔術を自由に魅力的に限りなく神秘的に見せて下さった。
あの崇高ともいえる演技は、何とも甘美な体験でした。
 
 『王女メディア』地方公演巡業中での事、「若松さん、コーヒー好きそうだから使いませんか?」と平さんからコーヒーメーカーを「医者からカフェインを止められてしまってね」と手渡されました。
ご自分の命が燃え尽きるのを分かっておられたかの様な、今思うと形見分けの様なプレゼント。
 
 今朝も私は、平さんから頂いたコーヒーメーカーでコーヒーを淹れ、頂いております。
平幹二朗という大名優と出会えた事に感謝しつつ。